アメリカ滞在中、ほんの短期間だけど語学学校に通った時期があった。
最初に通ったのはDCのベルリッツ。
なぜベルリッツかというと、ただベルリッツ・メソッドに興味があったからと言う単純な理由。ただ、学費はべらぼうに高い。旦那の会社からのありがたい補助がなければ諦めていただろう。
結果から言えば、ベルリッツメソッドは外国への短期旅行者やビジネスマンの出張など、目的のはっきりした人が、短期でその国の言葉を集中的に学んでサバイバルに必要なレベルの会話を習得するにはとてもいいんだろうと感じた。
ただ、英語よりも勉強になったことが一つあった。
ベルリッツ初日。マンツーマンレッスン。
受付のお姉さんに「〜番の部屋で待っててね」と言われて、言われた場所で待つこと数分。明るく気さくな女性の先生がやってきた。
お互いの簡単な自己紹介から。
年やら趣味やらの後に、先生が一言。
「ナルコレプシーって知ってる?」
私は知らなかった。
「睡眠障害の一つなんだけど、いつでもどこでも突然激しい眠気が襲ってきて、落ちちゃうことがあるのよ。だから、もし私がレッスン中に寝ちゃったら、椅子蹴っ飛ばして起こしてね」
と言って、椅子を「ガーン!」と蹴っ飛ばす真似をして笑う先生。
あ〜、そういうのがあるんだなって、初めて知った。
とは言っても、椅子蹴ったりできないな、とだけ思ったことは覚えてる。
そして、レッスン。
先生が寝ることもなく、とくに何の滞りもなく進んでいるかのように思えた。
ただ、私は気がついてしまった。
会話の練習中、先生、自分が話してる時は元気いっぱいなんだけど、私の番になると、どう見ても
「もしかして、今、先生睡魔と戦ってる?」
と思うような虚な表情になることが数回。
でも、最後まで先生が落ちることはなかったので、私も椅子蹴ったりしなくて良くてよかった。
今考えると、ベルリッツで学んだことの一番の収穫はこの経験だったなと思う。
日本の語学学校の採用面接で「ナルコレプシーありますが、起こしてもらえば起きるんで」って言って採用されるのはきっと厳しい。
彼女はきっとベルリッツに採用されるときにおそらく正直に伝えた。
それで、レッスンの前に、生徒にもきちんとそれを説明する。
そういうのが嫌な人はそもそもその先生の担当を外してもらうよう伝えるはずだし、特に問題にならないと感じればそのままレッスンを受けるだろう。
それだけの話。
それだけの話、っていうのが日本では、ありえない話になっちゃうことが多い。
少し前に、場面緘黙の女性が兵庫の労働局で障害の特性を全く考慮されずに、いじめとも思える対応を受けて退職に追い込まれた話の記事を読んだ。
その記事のコメント欄に、「職業選択を間違ってる」みたいな内容のものがあって、読んでて悲しくなった。障害があっても、周りの理解と環境調整があれば、できる仕事の幅はずっと広くなるのに。
てか、障害あるなしに関わらず、って話だとも思う。みんな何かしら苦手なことだったり困難を抱えてる人多いんだから。
私はと言うと、その先生、ナルコレプシーがどうとかというより、先生のレッスンのスタイルが私には合わなかったので、1、2回お世話になった後、担当を変えてもらった。
その後、休み時間の間なんかにその先生と顔を合わせることもちょこちょこあったんだけど、若干気まずいな、なんて思ってた私よりも先生ははるかに大人で、相変わらず超フレンドリーに話しかけてきてくれた。
休憩スペースには飲み物やらクッキーやら飴やらが置いてあって自由に食べていいとのことだったんだけど、アメリカのコーヒーはどこで飲んでも本当に薄い。アメリカンコーヒーはまず色からしてコーヒーではなく番茶のようだった。
ベルリッツのコーヒーももれなく薄かった。
その先生、「このコーヒー、このままじゃ美味しくないから、これ入れるといいわよ」と指差したのはスイスミス。
薄いコーヒーにマシュマロ入りスイスミスをブレンドだ。
これが、いけた。
番茶色のコーヒー単品よりはるかに美味しい。
先日、ふと思い立ってインスタントコーヒーとココアを混ぜてマシュマロを浮かべてみた。
あの時とはやはり何かが違った。でも、懐かしかった。
DCも最近はすっかり寒くなっているようだし、先生、またあのコーヒーブレンド飲みながら仕事がんばってるかな。