ほろほろ日記

こぼれ落ちる思い出を繋ぎ止めるメモ

文学は国境を越える

先日の娘のクラスの食事会でのこと。隣に座ったご夫婦、イタリア人の奥さんとフランス人の旦那さんと話をしていたら、たまたまスーパーの店員の話になった。とにかくここフランスのレジの店員さんはどんなに行列ができてようが、かけたいだけ時間をかけてるように見えるわけで。とりあえず「フランスの人は忍耐強く待つね」って話をして、日本でたまたま経験したある出来事について説明してみた。


兵庫県の前住んでたうちの近所にダイエーがあって、いつも買い物はそこに行ってたんだけど、そこのレジの店員さんで一人だけすっごく仕事が遅いおじさんがいた。結構混雑する夕方の時間帯でも、「あ、このレジすいてるな」と思って並んだら、余計時間かかったみたいなこともしばしば。だいたいいつも来るお客さんたちはその店員さんがかなりゆっくりした動作で仕事をするのを知ってたからあえて並ばないという選択をした結果だったらしい。私も急いでいるときはあえてテキパキした店員さんのレジに並ぶけど、そうでないときは特に気にすることなくおじさんのレジに並んでた。

おじさんは確かに仕事は遅いし愛想もないけれど、すっごく真面目に仕事してるのはわかるし、商品は丁寧に扱うし、おつりも間違いのないようかなり注意深くチェックして渡してた。

ただ問題なのはそのスピードが他の店員さんたちに比べてかなり遅いということ。

そんなある日のこと、いつものようにそのおじさんのレジで並んで待ってたら、私の前に高校生くらいの女の子が二人。おじさんがレジを打つのを何やら不服げな表情で眺めている。それで、会計をすませたあとにおじさんの「ありがとうございました」という口調を目の前で二人で笑いながら真似した。

 

それで最後に一言、「おっそいねん。」


それ、絶対聞こえてるよ。おじさんは何事もなかったように淡々と仕事を続けてたけど、私のほうがいたたまれなくなった。菓子買いにきてる高校生がほんの数十秒レジで待たされたくらいで親の年ほど離れた人に何をそんなに文句たれることがある?


みんなが早く仕事ができることが普通だと思ってる社会っていうのは、そういうふうに動きたくても動けない人からしたらしんどいだろな。
まぁ、確かに何事もいい面悪い面あるわけで、一概には言えないねって話なんだけど。

 

私はつたない英語で説明するもんで、うまく伝わらなかったかもしれないけど、この話を黙って聞いてたイタリア人の奥さんのコメントがすごく印象的だった。


「あなたのいう状況ってなんとなくわかる気がする。よしもとばななの小説も読んだから、なんとなくそんな雰囲気がわかる。若いっていうのは、時としてそれだけで愚かよね」

 

私のこのダイエーのおじさんの話とよしもとばななの小説のどこがどうつながったのか私にはわからないけれど、彼女の中では何かリンクするものがあったのだろう。彼女は日本には行ったこともないけれど、よしもとばななの小説の世界から日本の生活や人々の生き方を知らず知らず感じ取ってたのかな。


文学ってすごいな。

 

そこで私は(余計なことを)考えた。彼女は日本の作家の小説をこよなく愛してくれている。イタリアの作家で私が今まで読んだことあった作品あったかな、と考えてみた。それで思いついたのが、ジュール・ベルヌ。


「あ、ジュールベルヌって、イタリアの作家だったよね。中学だか高校のとき『80日間世界一周』読んだんだよ」

って話をしたら、フランス人の旦那さんが一言。

 

「彼はフランスの作家だよ」と。

 

今後いい加減なことは言わないようにしようと誓った瞬間でした。